【ロンドン=板東和正】世界保健機関(WHO、本部ジュネーブ)は5日、感染症のパンデミック(世界的大流行)が将来発生した場合の対応について、条約の策定に向けた具体的協議を始める。新型コロナウイルス禍で得られた教訓をもとに、ワクチンを途上国に行き渡らせる仕組みや、感染症拡大を防ぐためのWHOの権限強化を議題にする。5~7日の会合では、WHOの専門機関が作成した第1次草案をもとに、感染症の専門家らが討議を行う。条約もしくはそれに準じる合意文書の策定を目指し、盛り込むべき内容を検討する。今後、複数回の会合を経て来年のWHO総会で経過を報告。加盟国の議論を踏まえ、2024年の総会をめどに合意文書を完成させたい考えだ。WHO加盟国は昨年12月の特別総会で、パンデミックの予防や発生時の対応強化について議論を始めることで合意していた。WHOなどによると、第1次草案では、途上国にワクチンや医薬品を行き渡らせる仕組みを充実させる方針が明記された。パンデミック発生時のWHOの役割を強化することも示されている。コロナ禍をめぐっては、WHOのテドロス事務局長が2日、世界人口の約9割が過去の感染やワクチン接種により、ある程度の免疫を持っていると指摘。「われわれはパンデミックの緊急事態が終わったと言えるまでにかなり近づいた」と述べた。ただ、先進国と途上国の「ワクチン格差」はまだ現存する。英統計専門サイト「アワー・ワールド・イン・データ」によると、最低でも1回のコロナワクチンを接種した人の割合は高所得国が11月25日時点で79・6%なのに対し、低所得国はわずか24・6%だった。コロナ禍でWHOなどは、ワクチンを共同購入して途上国にも分配する国際的枠組み「COVAX(コバックス)」を設立した。しかし、WHOによれば、10月現在、世界で供給された150億回分のコロナワクチンうち、COVAXを通じた供給は12%にとどまった。コロナ禍ではWHOの権限に関する課題も残った。WHOのコロナ対応を検証する独立委員会は昨年5月公表の最終報告書で、中国湖北省武漢市の医療現場では原因不明の肺炎の集団発生が19年12月に覚知されていたと指摘。WHOが約1カ月後の20年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したのは「あまりに遅すぎた」と批判した。報告書は、感染症発生の際、WHOが加盟国の同意なしで即座に情報を発信し、現地調査を実施できるように権限を強化すべきだと強調した。